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昔の話 [想い出いろいろ]

高校時代を過ごした家は、父が舎監を務めていた神学校の「本館」と呼ばれる戦前から立つ建物であった。一階に事務室と応接室と、神学生の作業場や物置等やトイレ(いや、昔ながらのボットンだからトイレじゃなくてお便所かな)や使えなくなった焚き付け式のお風呂場や、父の書斎があり、二階の8畳三間に家族6人で住んでいた。

もちろん台所もお風呂もないので、食事は神学生といっしょに食堂で頂く。朝は7時、昼は12時、夕食は5時だった。お風呂は、敷地内の浴場に行く。お風呂の日は決まっていて、たしか月曜と金曜だった。


エマオの道1.jpg
神学校の林の中の道


私が中学三年だった十月に引っ越しが決まったので、それまでは昼間は働き、夜間高校に行く予定で準備していたのだけれど、急遽普通高校に進めることになり、慌てて受験勉強をし直したことを思い出す。家賃や光熱費、食費の支払いがなくなったのだから、舎監として給与がいくら低くても、私が普通高校に行くことになっても家族6人なんとか生きて行けたのだろう。


中学も高校も電車で隣町まで通った。

私は年子の三人姉妹の長女で、その下に12離れた妹がおり、女ばかり四人の子どもたちはさぞかしかしましく賑やかだったろうと思う。


それでも、朝は5時から夜は9時まで、神学生とともに祈り会や作業に出て行く両親を見ながら、人の出入りの多い建物の二階に住んで、当時三歳の妹はもとより、私たち姉妹もそこはかとない不安や寂しさがなかったかというと嘘になる。


それは誰のせいでもない。

もちろん父や母のせいでは決してない。


あの頃の毎日心の中に往来する行き場のない思いや不安や寂しさを、青年時代の私は、それなりに大切に愛おしく受け入れていたと思う。


学院の林.jpg


土砂降りの日に、傘をささず、制服(高校はセーラー服だった)のままで歩いて帰ってくる。ようやく家に着き、スカートのひだが無くなってしぼるほど濡れた制服のままで玄関に入ると、神学生や事務の先生の驚きの声を聞きながら、私は爽快で愉快で楽しくて仕方なかった。


あの日々に勝る無邪気なやけっぱちを、私はその後一度も経験したことはない。

…経験しなくっても良いんだけどさ。



こんな梅雨の雨降りの日には、あの時の不思議な心持ちを懐かしく愛おしく、そして、少しの涙を持って思い出す。



本館下トイレ.jpg
思い出の本館下の野外便所

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